今日は快晴だ。すっきりと晴れた梅雨の合間の日だ。曇り空が続いた後の快晴だから見ていても気分が良くなる。勢い良くカーテンを開けて空気を肺に取り込む。定期考査も終わってのんびり出来る日曜だからゆっくりとしていたいのが本音だ。爽やかな朝に・・・
「ふぅ、ランニングが終わったぜ」
この上ないくらいに汗臭い奴が部屋に入ってくる。爽やかな朝を返せと抗議したいくらいだ。入ってきた異様に筋肉質な奴は井ノ原真人。彼・・・直枝理樹にとっては幼馴染であり、ルームメイトだ。全寮制の学校な為、特別な事情が無ければ寮に住むのが規則だ。
「おはよう。真人」
「おう、おはよう」
「今日も朝から筋トレ?」
思わずに理樹が失笑を漏らす。年がら年中どころか、学校の休み時間の合間にすらやってて、良く飽きが来ないなという感心と呆れが口から漏れる。
「おうよ。俺から筋肉を取ったら何が残るんだよ・・・って、まるで俺から筋肉を取ったら何も残らないし、ただのでくの坊だろと言いたげだな! 理樹!!」
完璧に言いがかりだが、真人が理樹に食って掛かる。真人ほどの巨体に食って掛かられると、普通ならば腰が引けるが理樹にはいつもの事なので慣れてしまった。悲しい事に。
「相変わらずの言いがかりだね」
「ふっ・・・まぁな」
どこか誇らしげに真人が黄昏る。褒めてはないのだが。
「理樹、飯は食ったのか?」
「ううん。まだこれから。っていうか、これ見たらわかるよね」
着替えてすらいないのだから、理樹は当然パジャマだ。普通に出歩けるが、風紀委員会に見つかればうるさそうなのでやった事はないが。休みとはいえ、食堂は開いている。理樹も、真人も料理が出来る方ではないので基本的にそっちで食べる事が多い。二人で食べるより仲間たちもそこにいるのだから、皆で食べた方が美味しいし、楽しいに決まってる。
「さっさと着替えろよ。飯行こうぜ。筋トレした後だから腹減った」
「うん」
素直に頷いて、理樹は衣服を脱ぎ始める。


それぞれ朝食を決めて、お盆を持って彼らの姿を探すも・・・すぐに見つかった。
「よう」
まず理樹と真人に気が付いたのは恭介だ。二人よりも一学年上で理樹の幼馴染みだ。何かと兄貴風を吹かす為、昔から皆のリーダーであり個性の強い面々をまとめるのは彼の役目だ。というか彼以外にまとめられる人はいないと思える。
「おはよう」
次に挨拶をしたのは謙吾だ。理樹と真人のクラスメイトであり、幼馴染みだ。文武両道に長けており、剣道部のホープ。昔から真人に一方的にライバル視されており、その為か犬猿の仲だ。彼らの喧嘩はもはや学校名物になってしまっている。止められるのは恭介ぐらいだろう。
「・・・・・・・・・おはよう」
その次に挨拶したのは鈴。彼女も理樹たちの幼馴染みでクラスメイト。さらに言うと、恭介の妹だ。美少女ではあるが、人見知りをする質な為、友達は多い方ではないが、それが反って気位の高い猫を連想させて密かに男子には人気だ。隠れて学校の敷地内で捨て猫の世話もしている。数は不明。恭介が捨て猫を見つける度に鈴にあげるから数はわからない。
「おはよう」
「おう、おはよう」
理樹と真人も挨拶して、椅子に座る。人混みは多いが、それでも恭介たちの周囲に席が空いてるのは真人と謙吾の喧嘩に巻き込まれたらえらい目に会うからだろう。遠巻きだと名物でギャラリーも多いが。
「ふぅ〜、テストも終わってこれからゆっくり筋トレできるぜ」
「・・・・・・いつもの間違いじゃないのか・・・・・・」
「・・・だよね」
眉をひそめた謙吾に理樹が頷く。
「何だよ、まるで俺がいつも筋トレしかしてない暇人で部活で活躍している俺と同じにするなよ。筋肉が移るだろ・・・ってか? あぁ!? お前今なんつったぁ!?」
「お前に関わっている時間がないのは事実だが・・・」
「もうすぐか? 試合は?」
「ああ」
一人でいきり立っている真人をシカトして、恭介が話を進める。それに謙吾が頷く。真人は無視して。
「がんばれよ、試合」
「ああ」
恭介が応援して、謙吾がふっと笑う。
「ふっ・・・俺ももうすぐこの筋肉を披露する日が近いぜ。試合も近いしな・・・」
「試合って何の?」
理樹が知る限り、真人は帰宅部だったはず。人並み外れた筋力持っているけど、それを鍛える為にあえて部活に入ってないと言うのは本人の言。
「決まってんだろ。筋肉を見せ合うんだよ。まさに筋肉バトルだZE! 血沸き肉躍る筋肉と筋肉をぶつけ合う激しいバトルなんだよぉ!」
「馬鹿だ!こいつ!」
この世でありえないものを見た目で鈴が驚く。んな試合誰も見たくないし、想像もしたくない。
「ただ謙吾に張り合ってみただけでしょ」
「ふっ・・・まぁな」
嫌に誇らしげに真人がしみじみと理樹に頷く。
「本気で馬鹿だ」
「馬鹿は今日で始まった事ではあるまい」
「んだとぉおおお!!」
謙吾に噛み付いて、真人が吼える。
「待て、やるんならルールに沿ってやれ。お前たちが本気で喧嘩したら周りに迷惑なるだけだ。ごちそうさまでした」
ご飯を食べ終わったから、恭介が手を合わせる。それで鋭く真人と謙吾を交互に見る。ルールとはギャラリーの放り投げる物しか使えないと言うルールだ。かなりいい加減なもの・・・しかない。
「・・・ち、わかったよ。恭介がそう言うんじゃな」
しぶしぶ真人が拳を下ろす。なんだかんだで真人も恭介に逆らえないからだ。同意して静かに謙吾が頷く。
「これから街に出るけど・・・理樹、鈴、一緒に行くか?」
「いいよ、やることないし」
理樹が頷いて、鈴もちりんと鈴を鳴らして頷く。
「理樹が行くんじゃ行く」
「では、俺ももうそろそろ部活に行かせて貰おうか」
「ああ、後でな」
謙吾が立ち上がり、お盆を食器片付けのコーナーに持っていく。
「真人はどうする?」
「俺は遠慮しとく。やることがあるからな」
「どうせ筋トレでしょ」
「ふっ・・・まぁな」
やはり誇らしげに真人が頷く。
「暇だな」
冷ややかに鈴が言う。傍から見れば暇人以外の何者でもない。


それぞれ準備して、駅前の商店街を三人で歩く。子供の頃からあまり変わらない街を恭介や鈴と歩くだけで、理樹は小さな安堵を覚える。今が変わっていない・・・その証明のようで。
「ところで恭介。何か買い物があるの?」
「ん、ああ。好きな漫画の最新刊が今日出るんだよ。それに皆で遊びたかっただけなんだけどな。息抜きにもなるし」
「息抜きって就職活動の?」
恭介は最終学年である為、就職活動をしている。上に上がる気は無いらしく日頃就活を続けている。その合間を縫って理樹たちと遊んでくれているのには少し感謝を覚える。
「いいや、普段のミッションの」
ずこっと理樹がこける。まじめに聞いたのが馬鹿だったと。
「あ、あのね・・・!?」
「アホだな」
「・・・お前な。血の繋がった兄だぞ」
「アホをアホと言って何が悪い」
「・・・ふっ」
何かを諦めた失笑と共に、若干恭介が俯く。
「あ、何か傷ついた」
「理樹、俺の味方はお前だけだよ・・・」
そう言って、恭介が手を肩に回す。
「いつまでも一緒だぜ・・・理樹」
「西園さんと来ヶ谷さんが喜びそうな事言わないでくれない。僕にそっちのけはないから」
「・・・理樹」
若干寂しそうに、恭介が体を離し、世界が終わったかに凹んでいる。
「やっぱ、アホだ」
そんな自分の兄の姿に、鈴が素直な感想を述べる。
「今日はなんで鈴はついて来たの?」
「うん、もんぺちの新味が出るから」
要は鈴の目的はキャットフードの新味が目当てだ。日頃増え続ける捨て猫たちの為にたまにこうして、新味を買うことは多い。
「寮長にも買ってこいって言われた。この間」
「猫好き同士話が通じてるね・・・」
ちりんと髪留めの鈴を鳴らして、鈴が頷く。
「猫の話が出来て嬉しい?」
「うん」
「そっか」
朗らかに、理樹が微笑む。それに照れくさいのか、頬を紅く染めて鈴も釣られて笑う。
「お前ら、いいよなぁ・・・仲良くて。俺はどうせはぐれ者さぁ・・・皆からスルーされるのがお似合いの男なんだよ・・・・・・」
恭介の意地気が極まって座り込んで、地面にのの字を書いていじけていた。
「うわ、暗っ!!」
理樹が想像を絶する恭介のいじけっぷりに後ずさる。
「さっきのは冗談だからそんないじけないでよ、恭介」
「行くぞ!弟よぉ!!」
ガッチリ肩を掴んで恭介が華麗に復活していた。
「え、ええええええええええええ!? お、弟!?」
「鈴の彼氏は俺の弟も同然だ!!」
ぐっと、拳を握り締めて恭介が力説する。鈴の彼氏は弟って・・・それはそうなのだが。
「恥ずかしい事何言ってんじゃああああああああああ!!! ふか――――――!!!」
鈴の身体が鞭のようにしなり、実の兄に照れ隠しで蹴りを叩き込む。その蹴りの威力は筋肉馬鹿の真人や剣道部のホープである謙吾を一撃の下に沈めるのだから推して知るべし。一見平然と恭介が佇んでいるが・・・
「見事だ・・・鈴」
「き、恭介!?」
「知るかぁ!! 行くぞ、理樹!!」
ばたんと倒れた兄を放って、頬を紅くしてすたすたと鈴が歩いていってしまう。その恭介を引き摺って理樹も付いていく。














ブラウザバックでお戻りください。