「最近暑いな」
恭介が唐突に話を切り出す。夜、理樹たちの部屋に恭介、鈴、謙吾が集合するのはもう既に習慣となっている。夜に何かしらのミッションを考えて、皆でやるのが恒例となっている。
「最近も何もねぇだろ、恭介。時期を考えろよ。もう秋じゃねぇか」
「真人・・・俺の心は何時だって熱いんだ」
「おかしいな・・・前にも聞いたぞ。それ」
「まさか、肝試し・・・なんて言わないよな」
怪しんだ眼で見て、謙吾が聞く。それに恭介が頭を振った。
「やりたいのか?」
「やりたくないな」
即効で鈴が答える。お化けとか幽霊とかがダメな為、怪談になると即逃げ出すのも鈴であったりする。
「じゃあ、今回はどうするの?」
理樹が聞いて、待ってました、とばかりに恭介が眼を輝かせる。
「花火大会をしようと思う。夏も終わりだしな」
「ほう、珍しくまともな案だな」
感心して、謙吾がしみじみと頷く。もっととんでもない事を考え付くんじゃないかと思っていただけに、普通の考えで少し理樹は安心した。
「この時間帯なら、コンビニなら空いてるよね」
コンビニで売ってる花火なら、さして迷惑にはならないし、皆で楽しめる。
「筋トレしながら花火が出来るな! 理樹!」
「・・・危ないよ。真人」
「アホだな」
「でも、これなら皆で楽しむのもいいかもしれないね」
「うん」
「そうだな。早速皆に連絡してみたらどうだ」
鈴も謙吾も乗り気であるみたいだ。晩夏に合ってる風情のあるミッションだけに、皆賛成してくれるだろう。そうして、盛り上がっていたら恭介が怪訝そうな顔をしていた。
「待て、待て。それじゃあ普通の花火だろ。俺が言ったのは花火大会だ」
「ん、いや、待て。急に話が飲み込めなくなったんだが・・・謙吾っち、お前は」
「俺も・・・だ。花火というとコンビニで売ってるような花火じゃないのか」
「馬鹿か、お前ら」
ニヤリ、と恭介が笑う。
「そんな花火をして何が楽しいんだ・・・? この俺の燃えてるハートはそんなんじゃ物足りないぜ!」
「ちょっと待って! え、嘘!? 花火ってあっちの方なの!?」
「理樹は物分りが良いな。流石は理樹だ」
「どういうことだ?」
意味がわからないのか、鈴がきょとんとして聞く。意味が通じたのか、真人と謙吾が驚きに顔を引きつらせる。
「恭介・・・」
「どうした? 真人」
「確かによ。お前の言ってる事はわからなくねぇよ。だけどな。あれはプロがやるから綺麗に見えるんだぜ。素人もいいとこの俺らじゃ無理なんだよ」
「プロならここにいるじゃねーか」
「どこにだ? あたしたち以外に誰かいるか?」
「ここだよ、ここ」
恭介が親指を立てて、自分を指差す。
「・・・? 恭介がどうかしたのか」
「いや、だから」
「花火を打ち上げるのが恭介だって事。コンビニで売ってるような奴じゃなくて、花火大会とかの打ち上げ花火をやろうって恭介が言ってるんだよ、鈴」
見かねて理樹が口を挟む。
「まぁ、そういう事さ」
「・・・アホだな」
流石に―――いつもの気がしないでもないが―――実の妹にも呆れられた様だ。
「ちなみにこれが実物だ」
どこからか恭介が花火玉を取り出す。
「これが爆発すればこの寮くらいは大惨事になるな」
「うわあああああああああああああああああああああああああ!! それを遠ざけてくれええええええええええええ!! 俺、スキマスィッチみたいになりたくねぇぇぇよぉぉぉぉおおおおお!!!」
「大丈夫だ! 安心しろ、真人! 去年本物の職人から俺は伝授されてる! 大丈夫だ!」
油断した隙に花火球がテーブルをころころと転がって、落ちた。
「せええええええええええええええええええええええええふ!!!」
地面の付くか付かないかのわずかな刹那、謙吾がとっさに飛び出して、花火玉を掴む。
「危ない所だった」
「あのな、それぐらいじゃ爆発しないからな」
「ふぅ〜、さすがの筋肉もびびったぜ。スキマスイッチになりたくねぇよ」
「あれ、自分でやっている事を忘れないでね、真人」
「あれ、生まれつきじゃないのか」
意外な所で鈴から驚かれてしまった。
「安心しろ、俺がいる。だから心配する必要なんかないんだぞ。理樹」
唖然として恭介を見てみて、・・・不安だけしか感じられない。そして、またころころと花火玉が転がって、テーブルから落ちた。
「せええええええええええええええええええええええええええええええええふ!!!」
咄嗟にまた謙吾が飛び込んで、空中でキャッチする。
「もう少し取り扱いに注意しろ!!」
「だから、こんなところじゃ爆発しねーよ」
呆れ半分に恭介が言うものの、このままでは爆発の恐怖と戦い続けなければならない。遊びとはきっと楽しいものだ。こんな爆発の恐怖と戦いながら・・・だなんて、楽しめるわけはないのだ。人は自分の手で抗うべき時を見極めて、抵抗をしなければならないときもあるのだ。それはまさに今このときではないのか。神の横暴に抗い、自身の幸福の選択のときは今しかないのではないのか。選ぶのであれば今しかない。戦うべき時はきっと今だ。人は皆、幸福な時を生きる権利がある。神を打ち破り、横暴を拒絶して、そしてスキマスイッチみたいな頭になる惨劇を回避するのは今しかないのだ。選択できるのは自分しかいないと理樹は自分を奮い立たせる。みんなの楽しさとアフロヘアーになる悪夢を回避する義務があるのだ。
「・・・真人」
「・・・理樹」
お互いに見つめあう。そして意思の疎通は伝わったみたいだ。真人も同じ葛藤を考えていたようで、真人と思考を共有できた。真の友情に理樹は深く感謝する。
「僕がコンビニ行って花火買ってくるね」
「おう、俺がみんなにメールしておいてやるよ」
「理樹、あたしも手伝う」
「では、俺は花火の準備をしておこう。真人、メール終わったら手伝え」
「あいよ」
それぞれ役割分担を決める。ただ一人を除いて。そこは華麗にスルーされた。
「もういいよ!! 俺は一人で花火大会して楽しむさぁあ!!」
そして恭介が一人拗ねてキレていた。


理樹と鈴がコンビニで花火を買って、裏庭に来た時には拗ねたあの人以外は全員揃っていた。真人、謙吾、小毬、葉留佳、クド、美魚、来々谷がもう既に来ている。発案したのに恭介だけがいないのはきっと・・・何か悪寒を感じた。
「真人、説明はちゃんとした?」
「いや、してるよ」
「俺からも補足はしている。大丈夫だ」
謙吾が口を挟み、それでどうにか安心する。真人の人望は皆無・・・と言うよりは説明をきちんとしない為、誤解をされやすい。
「何で俺だと心配なのに、謙吾だと安心するんだよ」
「当然だと思うが・・・・・・」
「んだとてめええええええええええええええええええええええ!!」
真人が喚いて、突っかかろうとするものの真一文字に尻に叩き込まれた鈴の蹴りが入る。
「うっさいわぁあ!」
「・・・すいませんでした」
真人が非を認めて謝る。地面に顔面を埋めているが。
「真人少年は相変わらず愉快だな。はっはっはっ」
闇に溶けた様な長い黒髪の女生徒が豪快に笑う。身長は理樹と同じくらいで、スタイルは完璧とすら言えるプロポーション。見た目が完璧だというのに運動神経も、頭の方も全国順位で上から数えた方が早いという完璧超人過ぎる人。来々谷唯湖、同じくリトルバスターズの一人だ。そんな人が行動を一緒にしているのは楽しそうだから。それだけ。
「それにしても」
「ふか――――――!!!」
いつの間にかに姿を消した来々谷は鈴を後ろから優しく抱き締めて、鈴がその腕の中から抜け出そうともがいている。
「鈴君は相変わらずの抱き心地だな。うん」
「離せ、ぼけえええええええええええ!!」
もがいて鈴が抜け出して、理樹の後ろから威嚇する。
「ゆいちゃんは警戒されてるね〜」
のんびりという色彩の薄い髪の少女が笑う。神北小毬。彼女もまたリトルバスターズの一人だ。鈴とは特に仲が良く、二人で行動しているのを良く見る。のんびりとした気性でお菓子が大好物で、昼休みに屋上や裏庭でお菓子を食べているのを良く見かけて、微笑ましくなる。・・・高校生でそれは微妙な感想だと思うが。
「ゆいちゃんと呼ぶのはやめろ」
「ゆいちゃんはゆいちゃんだよ」
「だから・・・もういい」
諦めたのか来々谷は顔を顰めて、片手で覆う。
「ん、ところで恭介氏はどうした、理樹君。真人少年からメールがあったと言う事は今回も恭介氏の発案じゃないのか」
「恭介はこういう花火じゃなくて・・・ほら、花火大会とかの打ち上げ花火をやりたいって言ってたんだけど、僕たちで無視して話を進めたんだ」
「うん、賢明だ」
きっぱりと理樹を肯定して、頷く。
「でも、私はそっちの方が興味あるんですヨ」
「じゃあ、葉留佳君を花火玉代わりにして打ち上げてみよう」
「やっぱり遠慮しておきます」
言うほど冗談の通じない人に意見を言おうとするとこうなる。
「何かしてると思いますよ」
ぼそっと美魚が呟き、皆の視線がそっちに集中する。
「な、何かって何ですかー? 西園さん」
聞いたのは高校生にはあるまじき小ささの子だ。一見すると小学生にすら見えるこの子もまたリトルバスターズのメンバーだ。能美クドリャフカ。亜麻色の髪から見て取れる通りに日本人ではなく、ハーフで留学生だ。ハーフであるものの英語の成績は壊滅的でむしろ日本語の方が流暢に喋れる。それを気にして「外国」らしさをやたら気にする。美魚のルームメイトでもある。
「夜空を流れ星が切り裂くと思います」
「わふー! それはとてもびっくりなのですー!」
「綺麗そうだね〜」
「馬鹿だからな」
鈴が自分の兄に対する意見にしては厳しすぎる意見を言う。遠慮なく。
「理樹、花火をやろう」
鈴が提案して理樹が頷く。
「待て、ただ花火をやるというのは面白くないな。花火を持ってる間は何かを告白する・・・というのはどうだろう?」
「わ、わふー! それはとてもどきどきなのですー!」
「告白花火大会か・・・面白そうじゃねぇか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・素敵です!!!」
珍しくローテンションな美魚が乗り気だ。
「うふふ、直枝さんに対するあんな事やこんな事を皆さん(男子の皆さん)が告白して燃え上がる・・・素敵です、素敵過ぎます」
「うん、じゃあそうしようか」
理樹が頷くと自然にそういう流れになっていた。
「小毬さん。紙とペンとかある?」
「あ、あみだを作るんだね」
「言い出したはいいものの誰も最初にやりたがらないのはわかってるから」
メモ帳から切り取った一ページとペンを理樹に渡す。くじを書いて適当に名前と番号を書く。自分は一番最後にしてみんなの名前を書く。それで決められた一番手は・・・


「俺か・・・」
一番手は謙吾になった。謙吾が適当に花火を選んで真人がどこかから持ってきたライターで花火に火を付けて色取り取りな色彩の火が散らす。
「じゃあ、スタート!」
「・・・どうするか」
何かを迷って謙吾の視線が宙を彷徨い、ある一点を謙吾が見つめて、
「告白するかを考えていたら、自然にお前を見ていた・・・理樹」
「はい?」
「直枝さん×宮沢さん。・・・悪くないです」
ぽっ、と美魚が頬を赤くする。
「な、なにい・・・!」
「ちょっと待てえ!!」
鈴と真人が何やら衝撃を受けていた。
「残念だな・・・花火が終わってしまった・・・・・・」
「俺の出番はまだか・・・悔しいぜ。俺のありったけの思いを伝えてやるのによ・・・」
「何かとんでもない事になってきましたー!」
あみだを見て、次は誰かを確認する。次は、


「次はクド、だね」
「はい、あいむふぁいてぃんぐ!なのですー!」
間違いはスルーする事にする。意気込んでクドが花火を手に取り火をつける。色鮮やかな色彩が夜に輝く。
「スタート!」
「わたしはー、そのー、あのー、とても言い辛い事なのですがー」
ちらちらと美魚の方を見て、何かを気にしている。
「西園さんの秘密を見てしまったのです。あいむ・るっく・しーくれっと!」
「何を見たの? クド」
「それはとても口でも言えないのです。とてもとてもふぃあーでした!」
「何を恐怖する必要があるのですか?」
眼を細めて、美魚が言う。
「うむ、気にせずに進めてくれたまえ。能美女史」
「はひ! 男の人と男の人が・・・その、あれだったので言えないですー」
「うむ、今度貸してくれ」
「いいですよ」
何かの密約が成立していた。
「終わったのですー」
クドの花火が終わり、水に浸す。
「興味深い時間だった。おねーさん満足だよ」
あみだで確認する。次は、


「葉留佳さんだね」
「私かー! おっしゃあ! あられもない秘密を暴露しちゃうぞー! て、ええええええええええええええええ!!」
自分で言っておきながら何か衝撃を受けていた。花火を手にとって夜に花火の火花が咲く。
「私はね。この間見てしまったですヨ!」
「何を見たの。はるちゃん?」
「聞いて驚けえー! 真人君がこの間筋トレとか言いながらほふく前進で進んでるのを見てしまったんですヨ!!」
「え、いつもの事じゃね?」
「んー、そうだね」
確かにいつも通りのことだ。無意味な筋トレをするのが真人だ。それ事態は珍しい事じゃない。
「真人君、最低だね!」
「んだと、三枝。てめえ」
「みんな、下を見て見て!」
「足元が見えるが・・・それがどうかしたのか?」
至極当然な事を謙吾が言う。
「足元が見えますネ。その下に真人君がいたらどうなると思いますか?」
「ほわあ!」
「最低だな」
「わ、わふー!?」
「軽蔑します」
「うむ、おねーさんが断罪してやろう」
「な、何がどうなってんだよ!? 筋肉が悪い事なのかよ!?」
「あのな、真人。お前のほふく前進の視点から見ると女子のスカートの中が丸見えになる。だからみんながお前を軽蔑してるんだ」
「あ、なるほど。だからなんか白い目で見られたんだな」
「言われる前に気が付いてよ。真人・・・」
「あ、終わっちゃった」
葉留佳の花火が終わる。それと同時に次の人の順番になる。次は、


「小毬さんだね」
「こまりちゃん、がんばれ」
「がんばりますっ!」
鈴の応援を受けて、意気込んで小毬が花火を一本手に取る。火を付けて夜に色彩が散る。
「スタート!」
「こ、告白っ!?」
何か焦って色々と考えてるようだ。小毬がテンション上がったり下がったりして百面相を繰り広げる。
「ええと、あのその」
謙吾に向き直る。わたわたしながら、顔を赤くしながら。
「おおとぉぅう!? 小毬ちゃんが謙吾君にまさかの告白!? 面白い展開になりましたネ! 姉御!」
「うむ。面白い」
「何だ。神北」
「あのですね、ええと・・・」
「どうした、早く言ってみろ」
「この間、謙吾君のジャンパーをささちゃんが着てましたっ!」
「・・・は?」
「ささちゃんというのはささざがわさざみの事だな」
「笹瀬河佐々美さんだからね」
理樹が噛みまくった鈴のフォローを言う。鈴の天敵であり女子野球部の四番でもある。一年の時に同じクラスだった為に、小毬とも話す事があるそうだ。
「教えてくれてありがとう。神北。無くなって困っていたんだ」
「いいえ、どう致しまして〜」
「何で声掛けなかったの?」
「それはあれだよ。理樹君。キューピットなのですっ」
「それ以上は野暮というものだよ。少年」
意味深に、来々谷が笑って誤魔化される。
「終わりましたっ!」
花火が終わる。次は、


「西園さん、お願いするよ」
「わかりました」
美魚が控えめに花火を手に取る。花火が控えめに散る。手に取ったのは線香花火のようだ。
「報復します。能美さんに」
「わふー!?」
「この間能美さんがリキの匂いを嗅ぎまくりたい・・・と言ってました。変態ですね」
「わふっ、そんな事言ってないですー!?」
「嘘です。本当は一緒の部屋に住みたいと言ってました」
「それも違うのですー!?」
「嘘です。いつも一緒にいる井ノ原さんが目障りだと言ってました」
「クー公には負けないぜっ! クー公に勝つ為に特訓だああああああああ!! ふんっ、ふんっ!」
真人がその場で高速スクワットを始める。ああなった以上暫くはやめない。
「それも言ってないのですー!?」
「嘘です。いつか鈴さんからリキを奪い取る・・・と言ってました」
「なにい・・・!」
鈴が驚いてクドを威嚇する。
「警戒されてます!?」
「それも嘘です」
「さっきからみおは嘘ばっかりだな」
「そう言えば井ノ原さんが・・・あ、花火が終わってしまいました」
「・・・俺が、俺がどうしたって言うんだあああああああああああああああああ!!?」
「なんか気になる終わりだな」
真人が髪を掻き毟り、鈴が驚いてみせた。すたすたと鈴の隣に来て、何やら耳打ちしている。それを聞いた鈴が問答無用で真人を蹴った。
「な、・・・何故!? 蹴られたんだ!?」
「能美さんには後で教えてあげますね」
「ぜひ!」
こくこくとクドが頷く。


「次は・・・真人だね」
「へへっ、真打の登場だぜ」
花火を手にとって火をつける。派手な色彩が夜を彩る。
「理樹、言わずともわかってるよな・・・・・・」
「ふぇ・・・!?」
声がみっともなく裏返り、理樹が後ずさる。
「この筋肉はよ・・・お前の為にあるんだぜ。理樹。好きだぜ」
「えぇ・・・・・・」
「・・・きしょいな、お前ら」
「俺たちの友情がきしょいだと!?」
「鈴・・・お願いだから見捨てないで・・・・・・本気で・・・・・・・・・」
物凄い凹む。友達だけどきついものはきついのだから。
「直枝×井ノ原、・・・・・・美しくない」
ボソッと言って美魚が目を細めていた。
「ふええ!! それはダメだよ〜」
「うむ、理樹君とのカップリングは恭介氏か鈴君がベストだな。あの棗兄妹だからこそ意味がある」
「わかります」
美魚が頷きを一つ返すと、隣で謙吾が沈んでいた。何かに気が付いて真人の傍まで歩み寄る。その目は真剣だ。
「何だよ・・・てめぇには用はねぇよ」
「真人・・・こうなったら道は一つしか残らないな。恭介と戦う道だ。お前が勝てば理樹との日々は永遠になる」
「永遠の理樹との日々・・・・・・・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! やってやるぜえええええええええ!!」
「うわ、真人が燃えてる・・・」
そして、真人がその場で腕立て伏せをし始める。花火を口に咥えながら腕立て伏せは異様な姿であり、葉留佳が思わずにうわ、とか漏らしたのを聞き逃しはしなかった。
「ふんっ、ふんっ!!・・・ぐが、うわあっちぃいいいいいいいいいいいいいい!!」」
来々谷が真一文字に真人の頭に足を振り下ろして一閃する。口から離れた花火は後ろに倒れて、真人の顔が大惨事になったのは言うまでもない事だ。それを見て焦って消そうとした小毬が転んでバケツの水を思いっきり浴びてしまったのも言うまでもない事だ。鈴が駆け寄って手を貸してた。
「ふえええええっ!冷たい〜!」
「火はやめてくれえええええええええええええええええ!」
トラウマを思い出した真人が地面にごろごろと転がる。真人の姿は転がったまま何処かに去っていく。小毬の方は鈴からハンカチを借りて、顔や服を拭いていた。
「次に行かないか?」
「うん、そうする・・・」
謙吾が言い、溜め息混じりに理樹が頷いた。残り二人、次は・・・


「おねーさんの番だな」
いつの間にか来々谷が花火を持っていた。火をつけて夜空に花火が咲く。
「おねーさんの告白はクドリャフカ君か女装した理樹君がメイド服を着て、おねーさんの部屋を掃除しているのを後ろから付け回したい。あ、鈴君と小毬君でもおねーさんおっけーだよ。いや、むしろここは全員でというのもいいかもしれん」
一人何か怪しい妄想に浸った人が言う。
「来々谷さん」
「何だね? 美魚君」
「だったら、能美さんがメイド服、直枝さんが学園の女子制服、鈴さんが猫耳水着、小毬さんがバニースーツがいいかと思います」
「うん、最高だ」
妄想が加速したのか来々谷が萌えていた。
「やじゃぼけええええええええええええええ!!!」
そして鈴が反発していた。
「僕も嫌だからね。言っとくけど」
「わふ? 掃除だったら行きましょうか?」
「ふんっ、ふんっ! だったら俺たちの部屋も頼むぜ!クド公!」
ほふく前進で戻ってきた真人が告げる。だが、その視線の報いが訪れた。
「もらうネ。理樹君」
「一つ貰います」
葉留佳と美魚が同時に花火を取っていく。火をつけた花火が真人目掛けて噴射される。
「ぎぃやあああああああああああああああああああああああああ」
真人の叫びが木霊した。きっと遠い火の心的外傷を思い出した叫びなのだろう。
「満足した」
満足げに来々谷が言う。妄想を充分に楽しんだのか花火はもう消えていた。


「俺の番だな」
「うん、そうだよ・・・ってうわ、恭介ぇ!?」
いつの間にかに恭介が輪に加わっていた。ごく自然にこっそりと混ざっていた恭介がいたから、驚いた。
「って、あたしの番は飛ばされたのか?」
「いや、お前ら二人は最後だ」
「恭介氏。無論、何か仕込んであるんだろう」
「ああ、勿論さ」
恭介が静かに片手を上げる。すると、花火が上がった。夜空に打ち上げられた花火が色とりどりの色彩を描いて虚空へと堕ちていく。火の玉が飛翔する度に低い音が腹の底に響くのが伝わる。
「俺の告白はもちろん、リトルバスターズ最高おおおおおおおおおおおおおお!!!」
花火に彩られた告白は圧巻し、目を奪う。鮮やかな告白は誰の目から見ても記憶に残るだろう。いかにも恭介らしく、笑いが込み上げてくるものだった。
「あれって、誰がやってるの」
「ん、ああ、あれはな。ここには来なかった奴さ」
「それってもしや、さ・・・」
「さあ、どうだかな」
皆まで言わせずに恭介が理樹に向けて微笑する。遠くで、スパイなのに花火の打ち上げをやらされてる馬鹿な私を笑えばいいんだわっ!あーっはっはっはっはっ!とか聞こえた気がしたのは錯覚だ。
「あいつ、あほかっ!」
「そこは突っ込まないであげて・・・」
悲しくなってくるから。


「よし、鈴、行け!」
恭介が促がして、ちりんと、鈴が頷いた。
「まぁ、話せば長い話になるが・・・」
鈴が僅かに言いよどむ。戸惑いの色が鈴の顔から窺える。
「いいから。言っちゃいなよ。ゆ〜」
「うん、言って。鈴」
小毬と理樹が言うと覚悟が決まったのか、鈴が顔を上げる。紅い眼差しに真剣な色を称えて、鈴が口を開く。
「この間・・・」
皆が息を飲むのが伝わる。
「もんぺちの新味が出たんだ」
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
「で?」
「ん、それだけだぞ?」
そしてリトルバスターズ全員でずっこけていた!
「何か真剣な事の前フリかと思って期待した俺が馬鹿だったぜ」
「じゃあ、告白してやろう。この間、真人が馬鹿なロッククライミングをしてかなたに注意されたのにキレて押し倒そうとしたらしい。あほかっ!」
「な、なんで知ってやがるんだ!?」
「さっき教えましたから」
美魚がぼそっと言う。さっき耳打ちしてたのはこの事だったらしい。がばっと一気に葉留佳が花火を手にとってまとめて火をつける。
「死に曝せ!こんの筋肉達磨ああああああああああああああああああああああ!!!」
「うがああああああああああああああああああああああああ!!!」
火の中で真人が地面をごろごろと悶絶する。
「自業自得ですね」
「うむ、ああなって当然だ」
「あほだな」
二木佳奈多。名字は違うものの葉留佳の双子の姉だ。脈絡のない妹とは違って生真面目な性格をしている。それが故に風紀委員長を務めているほどだ。全くの正反対だが姉妹仲はいい。脈絡のない妹に呆れ果てたともいえるが。自分の姉に襲い掛かったとなれば葉留佳の行動が正当に見えてくる。
「すっきり」
晴れやかに葉留佳が言い、真人が気絶していた。
「ありゃ、さすがの俺でも弁明できねーな」
「風紀委員長に逆ギレするあいつはなんなんだ・・・」
「ああ、花火がない」
「ん、そうだな」
恭介が珍しく頷く。
「やははー。ごめんネ。理樹君。全部使っちゃった」
「じゃあ、理樹、行け!」
恭介ががばっと大振りに指差し、言う。
「花火は無くても、告白ぐらい10秒でいける。あ、10秒過ぎると罰ゲームだから。よろしく」
「ええー」
何だかんだで恭介には逆らえないのだ。それは今までの経験から嫌と言うほど知っている。


「少年。おねーさんはいつでもうぇるかむだよ。さあ、どーんと告白するがいい」
「やー、困っちゃうなー。理樹君。そんなに言うんだったらおっけー?」
「むしろ恭介さんに・・・、いえ、なんでもありません」
「理樹、好きだぜ」
「いいやっ、俺の方が好きだぁ!!」
「残念ながら理樹のハートを掴んだのは俺のようだ。俺はお前を守ろう・・・理樹」
「みんな、素敵に勘違いしてるね〜」
「リキがモテモテなのですっ!?」
「馬鹿だな」
「うーん、どうしようか」
ここはストレートに行くべきか、ボケるべきか。考えすぎてもいけないならば、ならば無難に行くしかないか。
「皆、好きだよ」
理樹は言うと自然に頬が綻んでいた。今、ここにいるリトルバスターズのメンバーが好きだ。それに嘘は付けない。
「あたしは理樹が好きだぞ」
「うん、ありがとう。鈴」
「ま、お前だったらそういうと思ったよ」
恭介が理樹と鈴の頭をくしゃくしゃとする。鈴も深いではないのか、目を細めていた。あの日の河川敷でとった一枚の写真がこれからもしばらく続く賑やかな日々の想い出になるであろうから。














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