もう会えない。
わかっていた。
出会えた所であの人にもう私の言葉なんて・・・・・・届かないのだから。
どうして兄妹でわかりあうことが出来ないのだろう。


ふとティアはそんなことを考える。
常に私たち兄妹は正反対の道を歩んできた。
その道が、交わることすらないままに。
いつか交わると信じていながら・・・・・・もう交わらないと心のどこかで思いながら。


だけど、もう兄はいない。
互いにわかりあうことなく、兄は命を落とした。
怨念、憎悪、信念、それらを抱いたまま第七音素の光の中に消えていった。
あの人は最後に何を思ったのだろう。
光の中に堕ちていく刹那に何を――――――・・・
それを求めたところで何もわかりはしない。ティアはヴァンではないのだから。


「・・・ティア」
ルークはぼんやりと空を見ているティアに寄り添うように立った。
「先生のこと、考えてたのか?」
「・・・さあ? どうでしょうね」
僅かにティアが微笑する。
そろそろ黄昏色に染まる空に視線を注ぎながら、声だけでティアが答える。


「無理するなよ・・・・・・ホントは」
「ホントは・・・何?」
僅かに苛立ちを込めて、ティアは語尾を強める。
「ホントは・・・・・・辛いんだろ」
「やめて」
拒絶するように小さくティアが呟く。


「たった一人の肉親にもう一度、逢いたくても・・・もう逢えないんだぞ! それなのにお前は平気なのかよ!」
「じゃあ、他にどんな方法があった訳? あの人を説得して、間違ってるといって聞くような人だった? ・・・いいえ、違うわ。それはあなたが一番わかってるでしょ」
静かに、だけど怒りを込めてティアが反論する。
ルークは黙るしかなかった。


ティアが一番辛いんだ。
自分の兄の死をすんなりと受け容れられたであろうか。
強がっていても、それを受け容れられるわけはない。自分を育て、護っていてくれた人の死なのだ。
憎んでも、違う道を進もうとも2人には兄妹という『絆』がそこにある。
確かに存在し、切ろうとしても切ることの出来ないもの・・・・・・それは確かにあった。
その絆をルークは少し羨ましく思う。


「同情なんか・・・・・・しないで・・・!」
辛そうに俯くティア。
長い、長い沈黙が訪れる。
どう言葉を掛ければいいか、ルークにはわからなかった。


「・・・無理するなよ」
そういってルークは優しくティアを抱き寄せる。
「・・・ルーク?」
「少なくても、俺の前ではそんな顔すんな」
「そう、ね」
すでにティアの頬には大粒の涙が伝っていた。


「顔は見ないから」
「そうしてくれると助かるわ」
ギュッとルークの胸元を握り、ティアは顔をうめる。


サヨナラ、兄さん。
今まで助けてくれて、ありがとう。
もう私は何も出来ないほど子供じゃない、貴方の助けは・・・もういらない。


だから・・・サヨナラ。








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