夜空を見上げる。
真昼の黄金の光とは違う、優しげな白銀の光が空から淡く世界を照らしている。
アルビオールの装甲にの上に一人で佇んでいた彼女の髪を、月明かりが濡らしていた。
その姿を、
俺は、


とても綺麗だと思った――――――・・・


「ルーク、何をしてるの?」
「ん、あー、その、何だ、ああもう!」
お前に見とれたなんてこっ恥ずかしくて言える訳ねーよ、などと思いつつルークを頭をぽりぽりと掻く。
「ン、顔が紅いわ」
「な、何でもねーよ」
と、ふいと後ろを向くルーク。その姿はまるで拗ねる子供のよう。年齢を言えば、子供と大差ない年齢であることに変わりはないのだが。

そんな彼の姿が可笑しかったのか、吹き出す様に笑うティア。
「な、なんだよ?」
「・・・別に。なんでもないわ」
淡く微笑み、再び地平線の上の月を見上げるティア。

いつからか、彼女の存在がルークの心の中で大きくなっていく。
折れそうな時にいつも彼女が隣にいてくれた。
折れそうな心を彼女が支えてくれるから強くなれた。
だから、ルークはこうして他の物が勝手に決めた「運命」と戦える。
誰かが決めた自らの運命を変えるべく、その道を進んで行ける。

ティアの隣に座り、ルークも同じように地平線を見つめる。
「初めて出会ったとき、何だこのえらそーな女はって思ったよ」
「じゃあ、お互い様ね。私もよ」
「あははは、俺たち出会った時はお互い、第一印象最悪ってことか」
「そうね、それに貴方は更に世間知らずだったから、余計に苦労したわ」
悪かったな、とルークが茶化し、笑う。
こんな穏やかな時間もまあ、悪くない。けれど、そんな時間が長く続かないことを彼は知っている。

「それが、貴方は今では・・・」
「その言葉は口にしないでくれ、ティア」
少し沈黙。
彼が背負うもの。彼が背負ってしまったもの。
多くの人を救おうと走り、そして多くの命をその掌から零し続けてしまった。
アクゼリュスで、レムの塔で、多くの人が彼の為に犠牲となった。彼はそれを望んでいなかったのに、結果として多くの命が失われた。それは・・・許される罪ではない。

「俺は、大丈夫だから」
自分に言い聞かせるようにルークが呟く。
「・・・ルーク」
「たぶん先生とも、アッシュとも戦えるから」
彼は決意を口にする。
あの世間知らずだった彼が、傲慢な振る舞いで多くの命を犠牲にした彼が、その道の果てに多くの屍の道を築いて進んできた彼が、
世界と戦える存在へと変わっていった。

「そう・・・ね」
その彼の横顔にどきりとしながらも、見つめる。
「ン、どうしたんだよ。顔、紅いぞ」
「ン、・・・少し」
心配するように尋ねるルークに笑いかけ、ティアの笑みに釣られてルークも頬を赤く染める。
そんな二人を、月光が淡く照らしていた――――――・・・






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