青い空、静かな波音。
白い室内に優雅な時間が流れる。
上流階級の人々が真夏に訪れるリゾート地の別荘を髣髴とさせる。
そうそれは夏そのものであり、一般的な人々が憧れるイメージでもある。

「でも、冬だけどねー」
アニスがあっけらかんと笑う。
付け加えて言うならば雪国でもある。
何故に真冬の雪国で水着で居ると言う狂人めいたことをしているかと言えば、ここはピオニー陛下が、
「感謝の気持ちだ。まぁせいぜい遊んでくれ」
陛下が飼っているブウサギを捕まえた謝礼としてこのスパの入場券をくれたのである。それも何度も無料では入れるというお得な入場券だった。
せっかくだからと近くを通りかかった時に寄ってみたのである。

「アニス、いけませんよ。今は真夏と言う設定なのです。それに合わせなければ」
「はぁい、大佐〜」
ジェイドのみ水着と言うよりバスローブを上に羽織った姿である。
「ピオニー陛下も気前いいよな。スパを貸切にしてくれるなんてさ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
じっとガイを見つめ、
「・・・つまんない」
「・・・がっかりですよ、ガイ」
二人揃って溜め息をついた。

「いや、期待外れみたいな顔されても困るが・・・」
「わかってないようですね〜、やってしまいなさい、アニス」
「は〜い、大佐ぁ♪」
「うわあああああああああああああああああああ!!!」
ガイの絶叫がスパ中に響き、当のガイはアニスから逃げるように大きく後ずさる。
アニスはガイに何もしようとはせず、ただ抱きつこうとしただけだ。それが女性恐怖症のガイにとってはこれ以上ないってぐらいに恐怖すべきことだ。

「相変わらずガイの女性恐怖症は治んねーのな」
「おや、ルーク。次は貴方の番ですか。どうやらリッドすら倒した私の拳を喰らいたい様ですね? アニスと違って私は優しくありませんよ」
「い、いや、遠慮しとく」
恐る恐る辞退する。
ルークとて自分の命は惜しい。
残念ですね、と笑っていたが本気でやるつもりだったのだろうか。

ルークの水着はトランクス状の一般的な水着だ。それに頭にはタオルを巻いているだけの簡潔なものだ。
「ってか、速えな」
アニスを見て、思わずルークが後ずさる。
アニスの水着はレオタードタイプのものだ。アニスらしいと言えばらしいのだが、やっぱり・・・
「ルーク、今すんごい失礼なこと考えてたでしょー。次考えたらどーなるか知らないよー♪」
顔は笑ってる声は全く笑ってない。と言うか普段の地声の恫喝よりも怖い。
「あ、後はティアとナタリアか。あいつら遅ぇな」
無理矢理にでも話題を変えて、その場をやり過ごす。これ以上この話題を続けたら月夜の晩に殺される。

「あら、女性の着替えを殿方が急がせるのはマナー違反ではなくて?」
「・・・・・・・・・」
「どーしましたの? 私の水着はやはり可笑しい?」
若干頭痛が走ったが、これは無視だ無視。どこかの赤毛のそっくりさんが、
『似合わないなどと抜かしたら殺すぞ? 屑が』
と囁いたよーな気がするのは気のせいだ。
ナタリアの水着はビキニタイプだが、露出がやや激しいもので目のやり場に困る。

「いや、ルークは君が可笑しいなんて思ってないさ。余りにも素敵だから目のやり場に困ってるだけさ」
と、空かさずガイがフォローを入れてくれる。
「そう、そう言ってくれるのは嬉しいですけどその距離は気になりますわね」
「ガイ、俺を盾にしながら言っても説得力ねーぞ」
実際ガイは向き合う状態になっているルークとナタリアに、ルークの背後に隠れるような状態だ。
「女嫌いならそう言う事言うなよ」
「全くですわ」
ナタリアもうんうんと頷く。

「済まない、女の子は好きなんだがどうしても体が無意識の内に拒否反応を示してしまうんだよ。直したく直せなくてさ」
ははは、と誤魔化すようにガイが失笑する。

「ダメじゃねーか」
「ダメダメだね〜」
「全く以ってこういう場に似合わない人ですね。ガイ」
「もう少し女性の側も気遣ってくれると嬉しいですわ」
女性恐怖症のガイにみんなの非難が集中し、ガイがいじけてその場に俯く。

「ご主人様〜〜〜〜〜〜」
何やら声が聞こえて声のするほうに条件反射で蹴りを入れる。
「何だ、ブタザルか」
「痛いですの〜」
真正面から飛んできた蹴りを顔面から喰らうことになったミュウはその場に倒れる。

「そーいえば、ティア知らねー?」
ミュウを含む全員に聞き、
「水着を着るか着ないかで悩んでたね〜・・・」
思い出したようにアニスがしみじみと語る。
「何やらピオニー陛下から頂いた水着は凄いものだったようですわ」
それに釣られてナタリアも失笑する。

「あのティアがそこまで悩むなんてな」
「陛下はたまに(と言うかいつも)とんでもない事しますからね」
あの陛下と過ごした素晴らしい日々―――大抵ジェイドが迷惑を被っている―――を思い出し、遠い眼をするジェイド。

「お、お待たせ」
ようやくティアの声が耳に触れ、ティアが合流する。
一瞬体中が熱っぽくなり、目の前が蜃気楼のように揺れる。
ティアの水着は白いビキニタイプの水着だが、ナタリアと比較すれば露出は少ない。
何故だか知らないが、ルークは体中が熱い。水着姿のティアを見た瞬間から。

「あら、陛下から頂いた水着ではありませんのね?」
「ええ・・・あの水着は凄過ぎて・・・着る勇気が無かったわ」
恥らうようなうっすらと頬を紅く染めて言う。
(どんな水着だったんだ・・・・・・?)
男子一同が揃って同じことを考える。
あのティアが着ることを躊躇い、凄過ぎると称した水着が気にならないわけではないが。

「じゃあ、その水着は何なんだ?」
「だからここのレンタルの水着を借りたのよ。流石にあれを着るよりはマシかと思ったから」
と、アニスが軽くルークを小突く。
「何か言うことがあるんじゃないの〜」
「そうですわ、貴方が気をきかせなくてどうしますの」
アニスに賛同して、ナタリアが咎める。

「ン、気ってどういうことだよ?」
「いーから、さっさと・・・・・・言え!!!
全力でアニスがルークの背中を押す。無論押されたルークはバランスを崩し、前にふら付きティアの正面に出る。
「アニスの奴・・・」
怨めしそうにアニスを睨むが、アニスは知らない振りをして、そっぽを向いている。
「? どうしたの?」
「いや、なんでもねーよ」
小首を傾げたティアに誤魔化すように言う。

また動悸が激しくなる。
ティアの水着姿を見るとドキドキして仕方ない。
何か言わなくちゃいけない。
それだけはわかる。流石にそれはわかるが・・・なんて声を掛ければいいかすら消失してしまったかのようにすら思える。

(やべ・・・頭真っ白だ)
何か言葉を言わなくちゃいけないのはわかるが、それすら忘れてしまったように何も浮かばない。
「どうしたの? ルーク」
覗き込むようにルークの眼を見るティア。それにドキッとして一歩後ずさってしまう。

「ああ・・・その、な・・・」
「何? ルーク」
じっとティアがルークの眼を見ている。
いつまでも誤魔化していても埒が明かない。
ここで動揺してても状況が変わらないのなら・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・綺麗だ」
「・・・・・・あ、ありがとう」
ルークもティアも顔を真っ赤にして、硬直する。

「はははは、初々しいですね〜」
「全くだ。付き合いだしたばっかりのカップルじゃないんだから」
「言うんならさっさと言えつーの、ハッキリしない男は彼女に見捨てられるよ〜」
「男は度胸、ですわ」
「ご主人様、顔が真っ赤ですの〜」
外野がうるさいが無視だ。
今、とにかくこの余韻に浸ることにしよう。

「そう言ってくれて・・・そのうまく言えないけどありがとう」
「俺もうまく言えなかったけど・・・」
「ルークらしい」
そう言って、ティアは頬を紅く染めたまま笑顔をルークに向けてくれた。














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あとがき/
50000HIT記念だし、夏らしい話をと思って書いてみました。
全身水着だしサービスをと思ったんですが・・・・・・何気に赤毛のそっくりさんとミュウを初めて書いたことに気が付きました。
そういえば、ガイの水着だけどんなのだったか覚えてなかったです。ティアとナタリアの胸を触るイベントは覚えてたんですが・・・





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