森の中の広場、そこにただ一人立ち尽くす者があった。否、ただ立っていると言う訳ではなかったのだが。 ルークはただ自分の神経を鋭利にし、感覚を研ぎ澄ます。 自分の中に在る音素を感じ、自在に操れるようになる為に。 自分の中の音素を操るのに、集中する。 元々音素を操れる訓練などルークは受けたこともないし、音素に頼るような状況があったわけでもない。屋敷の中に、監禁されてただけだというのにそんな事など出来るわけがない。 でも、そんなことは言ってられない。 これから自分の中の第七音素に頼らざるを得ない状況もあるだろう。だから、こうして訓練している訳なのだが。 ふと、 「ああ、くそ! もう少しだったんだけどな」 集中が途切れてその場にへたり込み、ルークがぼやく。 「もう終わり? 自分から頼んだのに・・・少し早すぎない?」 少し離れた場所から見守っていたティアが近寄り、感想を漏らす。 「何つーか、もう少しなんだけどうまく掴めないって言うか、なんつーか、・・・ああ、くそ! うまく説明出来ねー!」 そんなルークの様子を見て、ティアが嘆息する。 ルークの訓練にティアは付き合っている。同じく第七音素を持つこともあるが、ルークを放っておけなかったのが、ティアにしてみれば何よりの理由だ。 「ルーク」 「何だよ」 「少し力み過ぎているわ。もう少し力を抜きなさい」 ルークが反論する素振りを見せ、口を閉じ、素直に頷く。 「わかったよ、やってみる」 「どうしたの・・・? 言いたい事があるんだったら言った方がいいと思うけど」 僅かに小首を傾げ、ティアが言う。それにルークが首を横に振る。 「ここでまた文句を言ってたら前の俺と同じになるから。それだけは出来ないしさ」 それからルークが笑って見せた。 「変わるって約束しただろ。約束を破るわけにもいかないだろ」 「・・・そうね」 薄くティアが微笑む。 彼の暴走した第七音素が数万人、数十万人規模の人間の命を奪った。 彼の背中にはそれだけの罪が背負われている。背負わされてしまった。 預言と兄のせいで。それをティアがどうして許すことが出来ようか。身内のやったことなら尚更。 だけど、彼はそれに負けずに前を向いた。 自分が壊れてしまいかねないほどの罪悪感もあったろう。 罪に呑まれ、その罪に潰されてしまいそうにもなったろうに。 その彼の背中を見守ろうとティアは決めた。彼の行く末を最後まで見守る・・・作れた命だとしても、ただのアッシュの贋物に過ぎないとしても。 彼女の知っている『ルーク』は彼しかいないのだから。 「ルーク」 「・・・ん?」 ルークが振り向き、ティアの眼を見つめる。 「どうか、焦らないで。貴方は貴方なのだから」 ルークが少し驚いた顔をして、 「・・・うん、わかってるよ」 ルークは笑って、頷いた。その笑顔にはアクゼリュスを崩落させた罪悪感は感じさせなかった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ブラウザバックでお戻りください。 |