雪で街が白く染め上げられている。街の何処を見渡しても白一色だ。それもその筈、ここは最北の街ケテルブルグ。
「あー、寒ぃ」
「そりゃ、そんな格好をしていたら寒いだろ」
ルークの格好を見て、ガイが失笑する。ルークの衣服は腹の部分が全て出ている。そんな格好で雪国に来れば当然寒い。

「確かに・・・見ていてあまり温かそうには見えませんわね」
「見てるこっちが寒くなるよ〜」
「ちゃんと温かい格好をしなさい・・・全く」
と、女性陣からは非難が集中する。そんな彼らの様子にジェイドは失笑するより他ない。

「大佐は珍しく口数が少ないんだな」
「そう言えば・・・どうなされたんですの?」
ガイが声を掛け、ナタリアも賛同する。ケテルブルグに着いてからのジェイドはいつもよりは口数が少ない。
「いえ、大したことではないんですが。少し昔を思い出しましてね」
色々あったんですよ、ジェイドが言葉を濁す。あまり来たくはなかった、・・・否、帰りたくはなかった。
ここは彼にとっては故郷になる。色んな思い出がある。忘れたくとも忘れられない思い出が多過ぎてここに帰れば、その影を否応なしに思い出してしまう。
同時に背負った彼の罪も、憎しみも強く。
過去は過去だ。それは割り切っているが後悔は消えない。

思い出すは紅い景色と命の儚さを知らなかった自分。戻らない命が戻ると信じ、命の複製を生み出した。
戻そうとした命はあの人とは程遠い、あの人に似た違うモノを生み出したに過ぎなかった。
失った命は戻らない。そんなことさえも理解出来なかった自分。
あの日に戻れるとするのなら、


いっそ殺してしまいたい、それがあの人を冒涜した自分の罪を贖える道だ。


真っ白な雪にあの人の血痕が見える。
それほどまでに罪は深く、傷は深い。
それが消える道などない。人は過去には戻れない。どんなに願っても過去に戻る術はない。
それでも雪景色は彼の心から消えない。
永遠に心の奥底に雪が降り続けているようだ、失笑する。
「どーかしたんですか?大佐?」
「いえ、ルークがあまりにも考え無しだったのでね。可笑しくなってしまったんですよ」
ルークが納得がいかないとばかりに、半眼で睨んでくる。あまり迫力は感じないが。

「私は褒めているんですよ、ルーク」
「ぜんっぜん!褒められた気がしねー!」
拗ねて明後日の方向を向くルーク。
ルークは、彼の過ちの道筋から生まれたモノだ。
彼はまだ過去の自分自身を許せた訳でもないし、そんな日が来るとも思えない。
それでも過ちの中から見つけ出せたものも在る。

「まあ、気にしたら負けですね」
「大佐、そうやるとかっこつけてるみたいだぞ」
「みたい、ではなくかっこつけてるんですよ」
ガイの言葉を訂正して、ふっと笑う。
「それは・・・自分で言うことかしら?」
呆れたようにティアが言う。
「自分で言わなくて誰が言うと言うのです・・・?」
そうやって更に笑みを深める。それでティアが深々と溜め息をつく。

「おい、さっさとホテルいこーぜ! 寒ぃったらねーや!」
「賛成だな。ここでこうしてても暖が取れる訳じゃないしな」
「賛成〜!」
皆が歩き始める中、ジェイドが後ろを振り返る。
彼の歩いてきた道は血塗られた道だった。
大切な人を侮蔑し、軍人として多くの命を殺め、命を複製してここにある。
それでも、
彼はこの道を歩いていく――――――・・・





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