兄が預言を覆そうとしてる。
そのことは理解していた。
理解していた・・・・・・はずなのに・・・
どうしてこんなにも――――――・・・・・・



苦しんだろう・・・



彼女は空を仰ぐ。
あの空は兄の作った世界でも蒼いものなのだろうか?
変わらなくあるものだろうか?
永遠に・・・変わらなく人を見つめ続けてるものだろうか。
涙は・・・溢れない。
泣けないことほど辛い事はないと私は知らなかった。


「どうしたんだよ。ティア?」
不意に彼女に声をかけてきたのは・・・ルーク。
「みんなもう先に行っちまったぞ。どうしたんだよ。ボーっとして」
「そう・・・・・・ごめんなさい。急ぎましょう」
少しの沈黙。
言い出しかねたようにルークが言う。
「なあ・・・・・・お前無理してんじゃねぇの? 辛いなら辛いって言ってもいいんだぜ」
「私は無理なんか・・・!!」
言い返そうとしても言葉が出なかった。
この世界を覆そうとしてるのは・・・・・・私の兄なのだから。
だから・・・止めなくちゃいけない。


「あなたこそ無理をしてるんじゃない? ヴァンは・・・あなたの師でもあるのよ」
ルークが視線を逸らす。
「わかってるよ。そんなこと」
一旦言葉を切り、じっとティアの瞳を覗き込む。
「だから・・・・・・止めたいんだ。俺が・・・いや、俺たちがさ。ティアもガイもみんな力を貸してくれてるからさ。あいつの・・・アッシュの信用もあるんだし」
にこりと笑うルークにどきりとして、今度はティアが視線を逸らす。


「そう・・・決心は変わらないのね」
ティアが少し微笑む。
バチカルから一緒に超振動で飛ばされたときには彼がこんな顔ができるとは思いもしなかった。
全てを吹っ切ったような晴れやかな笑顔。
それは本気で生きると決めたから。燃え尽きるその瞬間まで。
彼の命の炎が後わずかしか残されていないとしても――――――・・・


「何だよ・・・じろじろ人の顔見て」
「いいえ・・・何でもないわ。行きましょう」
少しはにかんでティアが言う。
いつの間にかこんなにもルークの存在が私の中で大きくなっていたんだろう?
だから死んでほしくない・・・・・・そう思える。
たとえ彼が・・・世界に本来存在しなかった人間でも。


そして・・・・・・オリジナルルーク―――アッシュに変わって手を汚し続けてきたのだから。
血塗れになった彼だからこそ、弱い彼だからこそみんな傍にいようって思えるんじゃないか。
そんな気がした。
ただ強いだけの人間なんてこの世界には存在しないのかもしれないから。
だから人は・・・預言にすがった。それを求めた。
自分の選択が間違いだと思いたくなかったから。
そうやって何千もの時間を・・・預言という仮面で覆ってきて今まで至ってしまったのだから。
それを清算する刻が来た。
自分たちが生き延びるか。複製された者が生き残るかの選択になって。


この答えを選択したのは・・・私。
ルークに生きていてほしいと思ったのは・・・私。
預言でも第7音素でもなく・・・私。


選択するものによって未来なんていくらでも変わるというのに。
それに気がつかなかった人が愚かか、今になって気がついた私たちが愚かか。


「ルーク」
「ン・・・何?」
「私は見てるわ・・・いつでも。貴方がいなくなってしまう時まで」
「・・・ウン。俺がそう言ったから」
いいえ、とティアが首を横に振る。
「私がそうしたいと思ったから・・・・・・貴方と・・・・・・・・・一緒にいたいから」
はにかみがちにティアが言葉を告げる。


「そっか。俺もいたいよ。ティアとこうやってさ」
「・・・・・・バカ」
短く言い、ルークの胸元に顔をうずくめる。


「・・・ティア?」
「もうしばらくこうさせて・・・・・・お願いだから」
「・・・・・・わかった」
私たちを選択が正しかったかなんて後の歴史が判断してくれる。
でも・・・今は正しいと思いたい。信じていたものと戦う道を選んだことを。










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雰囲気ぶち壊しの続きがありますが。どうぞ














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